『データアントレプレナージャーナル』第2回 研究報告 “Data Entrepreneur Journal” Research Reports Vo.2
科学的手法とマネジメント手法を駆使したサービス・サイエンスの研究を推進しているのが,情報理工学域Ⅰ類経営・社会情報学プログラムの 椿 美智子 研究室である.椿教授は,女性研究者として大学を牽引しながら,広報センターのセンター長も務める.研究報告の第2回は,椿教授に現在の研究についてお話を伺った.サービス・サイエンスの追及
- 先生の研究の領域と特色は何でしょうか.
研究分野は,経営・社会情報学系で,サービス・サイエンスを研究しています.21世紀に入り,世界経済の中でサービス分野の占める割合が高くなっているのにもかかわらず,サービス特有の性質である「無形性」「同時性」「異質性」があるために生産性が高まらない面があります.サービス・サイエンスのフラッグシップとして知られる研究室.
- サービスを科学すると言うのは現代社会に必要ですね.先生は,数学特に統計学に重きを置いていると聞いています.
はい,そのため特に,「異質性」「同時性」を現実の状況に適合するようにモデル化し,科学的な分析方法,効率的なマネジメント手法によってアプローチできる方法を研究しています.タイプ別サービス効果分析システムの開発も行っています.研究室の学生は数学に強く,サービスのモデル化を追求している.
マイクロモデリング的ビッグデータ分析
- 具体的にデータサイエンスに関する取り組みは何でしょうか.
購買行動ビッグデータと顧客からのアンケートデータを融合して,顧客購買行動の分析・予測を行う方法を研究していますが,顧客の方も価値観やニーズ・属性等によって異質性があり,サービス提供者の方も価値観・モチベーションや能力によって異質性がありますので,それらの異質性を考慮した方法を開発し,より現実の異質性に適合するようにマイクロモデリング的に詳細にビッグデータ分析をしています.国内外のデータサイエンスを調査し,研究室や学内の教育に活かす.
- 顧客のさまざまな特性をパラメータ化した分析ですね.現実的な分析は企業との共同研究に繋がりますね.
そうですね.恐らく,業種や形態によって,顧客のモデル化やサービス提供者のモデル化はかなり異なる部分があると思いますので,各共同研究でカスタマイズされたビッグデータ分析となっていくと思います.確率的な因果関係の構造をベイジアンネットワークで分析する.
価値創造にまで至れる人材の育成
- 電気通信大学では,2015年度より『データアントレプレナープログラム』を開始しましたが,データアントレプレナーをどのようにお考えですか.
データ分析から価値を生み出し新たなビジネスの展開を生み出せる人のことだと思います.ですから,統計学・人工知能・情報処理などの情報科学を用いて,ビッグデータを分析している人の中でも,現時点での効率化を超えた,価値創造にまで至れる要素の分析・検討までできる人のことだと思います.優しさと正確性を併せ持つ適切な研究指導が魅力.
- データで事業を起こすには,価値を創造することが求められますね.そのために必要な基礎的スキルが在るわけですね.
学習の異質性分析
- 特徴ある研究の事例をご紹介ください.
サービスの研究と共に,学習に関する異質性の分析も行っています.学生タイプ別教育・学習効果分析システムも開発しており,各タイプの学生の成績向上のための教育・学習効果の傾向の分析,教師の授業改善が各タイプの学生の満足度に与える影響の分析,個々の学生への指導のための分析ができるようになっております.学習に関するデータなど,多様なビッグデータを分析する環境が整う.
- これは興味深いですね.個々のタイプに特化した学習は得意分野を伸ばすことも苦手分野を引き上げることも出来そうです.具体的にはどのような研究をされていますか.
そうですね,グローバル化に対応して,音声ペンによる小学生の英語学習プロセスログデータを分析して,英語4分野による得意等によって生徒をタイプに分け,それぞれのタイプがどのような方略等を用いて伸びているのかを分析・検証した研究をしています.椿研究室は,学習の分析に関する分野も強みにしている.
- 時系列データですね.とても現実的な結果が得られそうです.
さらに,文部科学省中央教育審議会が,問題解決や判断を支えるジェネリックスキルであり,大学教育において専攻分野にかかわらず,学部教育で習得すべき内容として,学士力の構成要素として位置づけられるとしており,小・中・高校生のときからの積み重ねが重要である批判的思考スキル向上に関する研究においても,学生をタイプに分け,各タイプの学生の教育・学習経験の各スキルに与える影響の分析も行っています. 今後は,大規模学習データの分析をマイクロモデリング的に詳細に行なうような共同研究も行っていきたいと考えています.- 判断的思考は仕事でも私生活でも必要な時代ですね.理系や文系,地域や組織による比較などが考えられ,実社会に大変役立つ研究ですね.今回は研究のご紹介ありがとうございました.
壁一面の美しいホワイトボードは,最適なアイデアを生み続けている.
田村 元紀
発行人
新日本製鐵株式会社を経て,文部科学省,東北大学,東京工業大学,東京農工大学にて産学官連携に関する研究を推進後,電気通信大学に着任.産学官連携センター センター長 産学官連携支援部門長 教授.データアントレプレナープログラムマネージャ(講座責任者).博士(工学)東京大学.技術士(金属部門).
清洲 正勝
編集者
電気通信大学産学官連携センター 特任助教.人工知能先端研究センター 客員研究員.プログラムフェロー(講座研究者).一般財団法人インターネット協会インターネット利用アドバイザー.研究論文『データサイエンスのプロセスと業務評価モデル』が情報処理学会学生奨励賞受賞.『データサイエンス論』講師.情報処理学会,人工知能学会正会員.